鉄筋コンクリート住宅にたどり着くまで

平成7年、その当時当社では従来の木造住宅を手がけておりましたが、阪神大震災を契機に、従来の木造住宅を改良し集成材大断面部材と金物を使った地震に強い家の製作に取り組みました。私が取り組んだ木造住宅は、2階建てでもきちっと構造計算を行います(通常の木造2階建ては、構造計算をする義務はありません)この工法を用いると、間取りの自由度も高く、従来の在来工法と比べて耐震性能も飛躍的に向上するものでした。

その間、国も建築基準法の大幅な見直しや、保証制度・建物の性能評価と新しい基準を作っており、私は国の作った規準で高い性能を満たすとされた、新しい木造住宅の設計をしてみました。
その基準では、耐震性を高めるために多くの金物で補強し、釘の位置・本数まで決められ、以前より確実に強くなっているという事は見るからに分かりましたし、ある程度の手応えも感じられました。又、耐火性能の高い外壁材がたくさん出てきた事により、火にも強い仕様を作る事が可能になりました。

試行錯誤しながらも、新しい基準で木造住宅の設計が完成しましたので、希望を胸に見積もりをしてみました。ですが、その結果を見て大変なショックを受けてしまいました。そこには従来の木造住宅と比べると、1.3倍ものバカ高い金額が表示されていたからです。一体なぜ?こんなにコストをかけないと高性能にならないのか・・・もし木造で安心出来る住宅を求めるとこんなに費用が掛かるのであれば誰も家なんて持てなくなってしまう。だったら、こんなに高い金額で張りぼてのように無理矢理作るのではなく最初から・・・!?

1つの真理に気が付いた瞬間でした。

法律や新しい制度は「木造住宅をいかにRCに近づけるか」と言う事を突き詰めているに過ぎない

金物で補強する、今までよりも厚い外壁材(サイディング)で作る・・・結局木造工法で鉄筋コンクリート造の建物に近づけるという事をやっているに過ぎないのだと気付いたこの時こそ私の頭の中がパッと明るくなった瞬間でした。

「始めから鉄筋コンクリートで作れば諸々の条件をクリアできるし、鉄筋コンクリートでコストを減らす事に専念すれば、皆様に自信を持って安心・安全な住宅をご提供できる」進むべき道が決まりました。

RC工法との出会い

建築家として、そして1人の父親として高性能RC住宅を適正な価格でご提供する事が私共の信念です。ですがRC住宅は木造住宅よりも高い(木造住宅とはコストが違います)ので、何も考えずに普通に作ると、誰も手の届かない高価な建物が出来上がってしまいます。コスト面を検討し、少なくとも高級木造住宅と呼ばれているハウスメーカーの金額と同等かそれ以下でご提供したい。これが私達の思う高性能RC住宅を適正な価格で提供するという信念になりました。

しかし、ここからがまた茨の道だったのです。それはまだ当社が鉄筋コンクリートの住宅を世に出そうと考える以前に、頻繁にご近所のマンションリフォーム工事に伺っていた事がありました。現場に伺ってみると、必ずと言っていいほど北側の部屋の壁には黒い染みや真っ黒になっている壁を数多く見ました。一見して結露が原因である事は分かりましたが、対策としては断熱材を入れて置けば良いのだろうとその当時は安易に考えておりました。

ところが、いざ自分達がRC住宅をこの世に出すとなった時に、日本では満足できる断熱材がまだまだ無いという事に気付かされたのです。それから1年以上国内、海外を問わずあらゆる断熱材メーカー・資材メーカーと言われるところに、ひたすら問い合わせをし、探し回りましたが自分達の考えるような物に巡り合う事は出来ませんでした。

断熱材が無ければ結露の対策が出来ない。結露の対策がとれない物は自信をもってご提供する事が出来ないと頭を悩ませていた時に、北海道にある資材メーカーが新しい断熱材を開発したという記事を建築専門誌で見つけました。とりあえずという感じで問合せをしてみたところ、まさに自分達が探していた物だったのです。それがRC断熱型枠システムでした。

このRC断熱工法を当初私たちは性能の高い住宅を提供する為に捜し求めたものでしたが、実際に採用してみると今までのRC住宅と比べて施工の際のコストダウンが図れるものだという事が分かりました。

当初私達が思っていた以上に価格の面で有利にRC住宅を皆様に提供できると感じました。今迄高嶺の花と思われていたRC住宅が手の届く範囲で提供できる形になりました。この金額であればハウスメーカーという「ブランド名」に高いお金をかけてしまっているお客様に本当の「豊かさ」を提供出来る。「安心」を提供出来る。

結果私たちはこれから家を建てるという方に提供させていただくのはRC(鉄筋コンクリート)造だけに特化することになりました。

ところが、それからしばらくするとひとつ合点の行かない事がありました。確かにこの工法で建築すれば、通常よりも適正価格でRC住宅をご提供できますし、お客様にも色々なメリットが有る事が分かりました。しかし、他のRC工法採用工務店や、ハウスメーカーと一括りにされてしまったのです。当たり前と言えば当たり前なのですが、RCを施工出来るという工務店によっては職人さんの技術や、デザインセンスなど千差万別です。ですから、同じRC造で作っても全然違う家が出来上がります。私どもは性能を追い求めてRC断熱工法に辿り着きましたが、単純にRC住宅なら売れそうだという理由だけで採用している業者や、ただ単にRC造を扱う工務店という形で一括りにされる事だけはプライドが許しませんでした。

「RCdesign」として何を創りあげるのか

という点に集中して現場監督・大工・職人さんすべてと毎晩のように議論を重ねました。会社創業当初から社員として働いている熟練した職人さん達と、これまでに数多く手がけてきた型枠大工工事の実績とノウハウ、RCdesign独自の建物をRC工法を利用してどの様に作っていくのかスタッフに浸透させ、オリジナリティを確立する事のみに没頭してきました。時間はかかりましたが、設計から現場監督、職人さんに至るまで私達の考えが浸透したことにより、充分に納得できるものが完成したという自負がございます。現場監督が設計の考えを理解し、職人の技術を把握しているからこそ、様々なデザイン・性能が住宅に反映される事になります。いくらデザイン力があっても、現場スタッフ1人1人の能力が伴わなければ良い物は何年かかっても作れません。また逆も真なりです。

私たちはこれまで鉄筋コンクリート造専門の設計・施工を行ってきました。それゆえに弱点を見つけては改善するという作業を積み重ねてこれましたし、何より大切な経験値を得たのだと思います。たとえば外壁の仕上げ方法や屋根の防水仕様、室内の仕上げ方法などの弱点を克服してきました。
その過程においてはむしろコストアップにつながることもありましたので、もしかすると同じRC造の業者と比べても多少高い価格かもしれません。

私たちはとにかく安ければ良いという価格至上主義的な考えは持っていません。だからと言ってコストをかければ良いというものではないのは当然ですね、より安全でより快適でより長持ちする性能を追求しながら手の届く価格を目標にしています。お客様が支払った金額以上の価値がなければお客様のメリットにはならないと考えているからです。それこそがお買い得と思うから。

人の親として住宅を考える

当社にも社長以下子持ちスタッフが多数います。私達は家を建てるのであればRC住宅を建てる様にお薦めしています。それは建築家の視点からお薦めしているとも言えますが、むしろ人の親としての視点から子育て世代の方にも健康住宅をお薦めしているのかもしれません・・・

阪神大震災が当社の転機
1995年1月17日阪神大震災は起きました。先にお話ししたように当時の当社は木造住宅の設計・施工を手がけていました。当時から建築家として、また工務店としてのプライドがありましたから、木造といっても集成材と金物を使用した非常に強い構造にしていました。一般の木造住宅と比べると1.3倍もの強度があり、大地震でも倒壊しない建物を作っておりましたし、自信を持っておりました。
ですが、皆様もご存知の通り震災により我々は大自然の脅威を思い知らされる事になります。そこで多数の尊い命が奪われてしまった事実。私達は大変なショックを受けました。時間が経つにつれ、現地の詳細が分かるようになると、建築に携わる者として考え方を変えなければいけないと言う事に気付かされたのです。

もう木造は造るまい!

建物の倒壊よりも火災による被害の方が遥かに大きい

これは皆様が思っている以上に建築家にとっては衝撃です(もっともそれに気付かない鈍感な大手ハウスメーカーや工務店は多数ありますが・・・)。住宅を検討されている方の多くは、例の姉歯事件からも耐震という言葉に非常に敏感です。ですから作り手側は「耐震・免震工法」といった表現を用いて営業行為を行っていますし、そこに命を賭けているといっても過言ではありません。当然ですね、自分の作った家が地震で壊れてしまったらそれこそ今後の商売に影響しますから・・・

建物の耐火について

建築基準法では建物の性能について準防火構造・防火構造・準耐火構造・耐火構造に分かれています。この性能を通常どのように使い分けるかと言うと「都市計画法」という法律によって建築予定地は様々な制限が課せられるわけですが。正直な話、木造住宅を作っている業者はこの都市計画法で「準防火地域」「防火地域」となっている所以外は耐火云々の事は言いません。もしお客様から言われた時は「もちろん火に強い構造にできますけど高くなりますよ、でも火事なんてそう簡単に起きる事ではないですからその費用を他に回したほうがお得ではないですか?」と言っておしまいです。

お客様は「高くなるのなら仕方が無い」という形で諦めてしまうのです。世の同業者は自分に責任が無い事には全くもって無頓着です。地震などによる倒壊は目に見える形で責任を問われかねないので真剣に取り組みますが、火事については自社の責任を問われない為、そこについては多くを語りません。雑誌やTVコマーシャルで耐火性能が謳われない理由はそこにあります。また建築の受注金額がその耐火云々で上がってしまった場合にもっと安い業者に行ってしまう可能性がありますから、より安い金額を提示する為にも耐火性能については目をつむるのです。

耐火性能を理解していますか?

建築基準法上、耐火に関しては下記のように性能が分けられます。

1.準防火構造  主に木造住宅で、防火地域・準防火地域以外の地域で延焼の恐れがある部分の外壁に指定されます。性能の基準は加熱開始から20分間加熱面以外の面の温度が可燃物燃焼温度以上に上昇しないものということです。

2.防火構造  こちらも主に木造住宅で、防火地域・準防火地域以外の地域で指定されますが、耐力壁の外壁は30分の加熱に対して耐力上支障のある変形、溶融、破壊等の損壊を生じないことというものです。

2.準耐火構造 こちらは防火地域や準防火地域の建物に指定される性能なんですが、建物の規模と構造によって種類も多く複雑な規定になってます(木造やハウスメーカーの建物を建てるためにこうなりました)。すごく簡単に言うと不燃材料で造ることや、加熱時間45分でも耐力上支障のある変形、溶融、破壊の損壊を生じないこと。

3.耐火構造  こちらも防火地域や準防火地域の建物に指定されます。こちらは規模と部位によって1時間から3時間まで構造耐力上支障のある変形、溶融、破壊の損壊を生じないこととなります。

以上非常に簡単に分けるとこの4つになります。

なかなか文章で理解するには難しいかもしれませんね、でもこれには驚く方も多いと思うのですが、普通「防火」という言葉を見れば「火に強い建物」という認識だと思います。ところが、法律ではたったの30分耐えられる構造でありさえすれば「火を防ぐ」という認識なのです。通常の火災時は1000℃以上になると言われていますが、木材は260℃付近で燃え出しますし、鉄骨でも500℃以上で強度が半減してしまいます。

ここで1つお聞きします

「もし夜中、寝ている最中に火災が起きた時、30分以内に家族全員を避難させられる自信がありますか?」

これが私が建物の防火性能について声を大にして申し上げたい事です。最近は木造でも準耐火構造をうたっているものもありますが、それでも限界があります。家は家族の命を守る器なのですから、「火」についてはもっと真剣に考えなければいけないのではないでしょうか?

父としてのプライド

火災というのは自然災害時だけでなく普段でも起こりうる事です。月に一度、冬場になれば週に一度位の頻度で火災による被害が報じられます。子を持つ親としては目を背けたくなる内容ですし、被害者は概して子供と老人です。家というものは家族を守る器であると私は考えています。ですから万が一の事態が起きた時に家族を守る家を作らなければいけないのだと考えます。そう考えると耐火性能については最高ランクの耐火構造で作るしかないのです。「子供の命を守る家を建てる」これこそ親としての義務だと考えています。

父としてのプライド2

せっかく家を建てるのだから、せめて自分の子供の代まで使える家を建てたいと思いませんか?
住宅をこれから建てようという方にこの質問を投げかけると例外なく

「当たり前じゃないですか」

という答えが返ってきます。ですが、みなさん大手ハウスメーカーを含めて木造住宅のパンフレットをお持ちになっているパターンが圧倒的に多いのです(日本は木造住宅業者が多いという事を痛感します)
木造住宅の平均寿命は未だに30年前後しかありません。というよりも築30年の木造住宅はかろうじて住めている様な状態です。ですからそれ自体に何の価値もありませんし、法定耐用年数は木造住宅で22年です。自分の資産を作ったつもりでも、22年で価値が無くなるのです。ところがその価値の無くなるものをみなさん何年のローンで買うのでしょうか?ご家庭によって様々ですが25年~35年の住宅ローンを組まれる方が圧倒的に多いのが実情です。22年で価値の無くなる物を35年のローンで買う・・・こんな馬鹿馬鹿しい話はないでしょう。

せっかく建てた家を30年後に壊して、また新しい家を子供さんがまた35年ものローンを組んで建て直す、しかしその新しい家も孫の代まで持たない・・・何も考えずにいると、無駄な住宅ローンが繰り返されるだけなのです。こんなのってアリでしょうか?子供達に少なくとも自分と同じ様な苦しい思いはさせたくない、そして自分が家に費やした費用を子供には別の事に活かせるようにしてあげたいと考えます。月に10万20万といった家賃や住宅ローンが無ければ自分の子供達はその分の費用を教育や趣味といった様々な事に使えるのです。自分の子供には法律的にも資産的にも価値のある物を残さなければいけないと思います。

実は世界をよく見てみると欧米ではすでに住宅の平均寿命が100年を超している国が多くあります。日本も経済大国と言われたりしていますが、そのわりに庶民レベルでそんなことを実感したことはありませんね。それに比べ欧米の夏期休暇や昼休み、数々の文化活動など、何となく本当の豊かさを感じてしまうのはなぜでしょう。私はその原因のひとつにこの住宅の平均寿命が関係しているのではないかと考えています。

「家族の命を守り、未来の家族の為に資産を残す」これこそ、親としてのプライドなのではないでしょうか。
変な話、もし自分が生まれ変わっても道に迷わずにすむかもしれません。だってそこには見慣れた建物が残されているのですから。